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2025.09.10
JR線、小田急電鉄の町田駅から歩いて数分。昼夜問わず多くの人が行き交う通りを進むと、レトロなテント看板に「町田仲見世商店街」の文字が見えます。戦後の闇市から発展し、70年以上の歴史を持つ町田仲見世商店街です。
全長約80mのアーケードの下には、ラーメン屋、沖縄料理店、マグロ屋、ジュエリーショップ、占い鑑定所など、個性豊かなお店が軒を連ねています。
その南側の角地にあり、休日には行列ができるほどの人気を誇るのが、和菓子店の「マルヤ製菓」。現在店を切り盛りするのは、2代目店主、鈴木志歩(すずき しほ)さんです。
気になる味が所狭しと並ぶショーケース
「マルヤ製菓」は1968(昭和43)年に創業され、現在57年目を迎えています。現店主のお父様が脱サラ後、親戚の和菓子屋で修行を積み、町田で開業しました。
看板商品は、店頭で焼き上げる「大判焼き」。完成までに手間のかかる和菓子とは別に、作ってすぐに提供できる商品として、約40年前から始まったそう。
注目すべきはそのバリエーション。定番の小倉あんやカスタードに加え、抹茶、チョコレート、さらにはチーズダッカルビやラザニアなど、40種類以上の味がそろいます。季節限定メニューも登場し、飽きのこないラインナップが人気を支えています。
ほんのり甘い皮の中にあんこがぎっしり詰まった「小倉あん」
「昔はもっと品数が少なかったです。それでも『餅米用の蒸し器で、一緒にジャガイモも蒸してみようか』『お餅とチーズも入れてみよう』というふうに父と当時のアルバイトの方が試行錯誤を重ね、『ポテマヨ』や『ポテチーズ』などユニークな味が次々と生まれていきました。」
ひんやりした状態でいただく「冷た〜い生クリームたい焼き」
大学卒業後、志歩さんが就職したのは、食品系の商品開発会社でした。材料の発注や生産ライン管理などを担当しましたが、「すべてが数字で評価される仕事」に、どこかもどかしさを感じていたといいます。
「『こうしたらもっと良くなるのに』『こんな企画をやりたい』と思っても、会社ではいくつもの承認を得ないと形にできません。その点、「マルヤ製菓」では、お客さんの反応を見ながら味を変えたり、販売方法を変えたり、自由に試すことができます。そして何より、その場で『おいしい!』という声が返ってくる。数字だけでは得られない手応えがあると、一度会社員を経験して痛感しました。」
「どうしたらお客さんがもっと喜んでくれるだろう?」と考える時間が楽しく、自分でお店を営む魅力に気づいた志歩さん。お店を継ぐことを決め、「2代目」として店に立つようになったそうです。
普段は調理を担当することが多い、2代目の鈴木さん
志歩さんのお父様は、2年前に亡くなりました。それからは、いつもお店のことを一番に考えていたお父様の姿がよく思い浮かぶといいます。
「生前、できるだけ店のことを聞いたつもりですが、それでもやっぱり聞き足りないことばかりです。「マルヤ製菓」は周りがあってこそのお店。買い物をするにしても『できるだけ地元で』と、父はよく言っていました。自分の店だけが儲かればいいのではなく、みんなにとってよいことが大事──。父はそういう価値観を大切にしていた人だったと思います。」
志歩さんの父は病床で、看護師さんに「あんなに大変な仕事を継がせてしまって申し訳ない。」とこぼしていたそうです。
「私に継がせたことを引け目に感じていたみたいです。でも、私がやりたくてやっていることなので、それを父に伝えられたらいいのになって。」と志歩さんは語ります。
バラエティー豊かなお店が集うアーケード下
現在、町田仲見世商店街の会長も勤める志歩さん。
「商店街は今年で72年目を迎えました。それぞれのお店が個性を発揮して、お客さんが『来てよかった』『楽しかった』と思えるような商店街であり続けたいですね。」
そんな志歩さんに、「マルヤ製菓」の今後の目標をたずねると、こんな答えが返ってきました。
「夢は、海外に店舗を出すことなんです。最近は海外からのお客さんも増えていて、日本の和菓子のおいしさが世界にも通じることを実感しています。とくに、店頭で焼きたてを提供する大判焼きのおいしさを、もっとたくさんの人に知ってもらいたいです。」
変化を恐れず、挑戦し続ける気持ち。それはこれからも、「マルヤ製菓」にしっかりと受け継がれていきます。